1.はじめに(テトは「関係を結び直す時間」)
ベトナムの旧正月「テト」は、新年への切り替えのタイミングであると同時に、精神的・文化的に大きな重みを持つ行事です。街は帰省する人々や贈答の準備をする人々で一気に慌ただしくなり、家庭では家族が集まり祖先を敬い、一年の平安や幸福、商売の繁栄を祈ります。普段はビジネス優先で動く人でさえも、テト前になると「まず家族の用事を済ませてから」と話す場面が増えていきます。取引先との打ち合わせ日程が突然前倒しになるのも、この時期ならではの「現場のリズム」と言えるでしょう。
2.丙午2026(馬が象徴する前進と商売の気)
2026年、ベトナムは丙午(ビン・ゴー)の年を迎えました。馬は古くから、「力強さ」、「自由闊達」、「前進」の象徴として親しまれてきました。風水の世界では、「商売繁盛」、「昇進」、「投資運」、「幸運」、「財運」に結び付けて語られることが多く、オフィスや店舗で馬の置物やモチーフを見かけることも珍しくありません。
干支は12年ごとに巡りますが、十干と組み合わせる暦法「六十花甲」では60年周期となり、午年にも庚午・壬午・甲午・丙午・戊馬の種類があります。毎年、年回りを細かく意識する人もいれば、縁起ものとして興味を持つ程度の人もいます。しかし共通しているのは、「良い流れに乗りたい」という純粋で現実的な願いではないでしょうか。
3.端午節と「陽の気」
十二支の「馬」は七番目に位置し、旧暦五月とも結び付けられます。旧暦五月五日の「端午節(端午の節句)」は、季節の節目として意識される行事です。「端」は始まり、「午」は正午を意味し、陽の気が強まる時期を象徴すると言われます。
こうした暦や季節感は、単なる言い伝えではなく、暮らしの判断軸として今も息づいています。体調管理や家族行事、商売の区切りを「暦の節目」に合わせる発想は、ベトナムの生活文化を理解するうえで重要な手がかりになります。
4.神馬に託す願い
民間信仰の場面でも、馬は特別な存在です。ベトナムでは「恩を大切にする」価値観から、国を守った英雄だけでなく、その功績を支えた馬にも敬意が払われてきました。各地の寺院や祠、将軍を祀る廟などで、「翁馬」、「神馬」と呼ばれる像が祀られているのはそのためです。
旧正月や節目の時期には、旅立ち、試験、事業などの成功を願って参拝する人が増えます。私が印象に残っている参拝方法は、赤い封筒に「縁起金」を入れ、それを馬の鞍袋に納めて鈴を鳴らすという作法です。その後、封筒を取り出して「福を受け」取ります。信仰の深さは人それぞれですが、願いを言葉だけでなく「形にする」丁寧さに、ベトナムらしさを感じます。
5.おわりに
漢字の「午」は、弓を離れた矢が前方へ飛び出す姿に似ているとも言われ、自然な推進力を表しています。丙午の2026年は、挑戦や飛躍を後押しする年回りとして語られることも少なくありません。ホーチミンの街で感じる馬のエネルギーは、単なる縁起話ではなく、「前へ進もう」とする人々の情熱そのものなのだと思います。
<ご注意>
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