1. はじめに
ラマダンの時期になると、ホーチミン市(旧)8区のチャインフン地区では、昼過ぎから屋台が並び始めます。一般的な屋台が朝や夜に営業するのに対して、このマーケットは14時頃に開き、イスラム教の午後の礼拝が終わる15時30分頃から人々が一気に押し寄せ、最も賑わう時間帯を迎えます。路地がイスラムのシンボルやカラフルな装飾に彩られ、街の雑踏とモスクからの祈りの声が重なり、独特な雰囲気を醸し出しています。毎年ラマダンの期間にあわせて1ヶ月間(2026年は2月17日~3月18日)だけ開催される特別なフードマーケットについてご紹介します。
2. 年に一度の特別な景色
ホーチミン市には約1万人のイスラム教徒がおり、いくつかのチャム族コミュニティに分かれて暮らしています。各居住区はモスクを中心に形成され、礼拝などの宗教活動やコミュニティの結束を支える拠点になっています。
イスラム教徒にとって神聖な月とされる「ラマダン」は、イスラム歴の9番目の月で、「断食月」とも呼ばれています。期間中は、日の出から日没まで飲食や喫煙を控え、心身を清めるために日々の振る舞いに注意を払って過ごします。夜明け前に朝食「スフール」をとり、日没後には家族で夕食「イフタール」を囲み、絆を深めます。
このイフタールの準備のためにフードマーケットは欠かせません。人々は、午後になると断食明けの食事を求めてチャインフン地区のズオン・バ・チャック通りやジャミウル・アンワル・モスク周辺のラマダンフードマーケットに足を運び、豪華なハラール料理を調達します。
3. チャム族の味が楽しめるメニュー
ハラールの規則を厳守するため、マーケットで提供される料理に豚肉は使われていません。代わりに牛肉や鶏肉が主な食材として使われ、チャム族独自のレシピで丁寧に味付けされています。
数ある料理の中でも人気が高いのは、トゥン・ロ・モと牛肉カレーです。トゥン・ロ・モは牛肉ソーセージを香ばしく焼き上げた料理で、ハーブの香りがふわりと広がり漬物と一緒に食べると絶品です。スイーツ類も豊富で、緑豆餡を使ったバイン・ホットミット、バイン・ボー、バイン・セップなどが屋台に並びます。さらに、断食明けの最初の一口の定番、ナツメヤシも忘れてはいけません。そのほか、牛乳やココナッツミルク、カレー粉で炊き上げる「コム・ニー」や伝統的なスープ料理など、多彩なメニューがラマダンならではの食文化を彩ります。
マーケットで長年店を営むチャム族の女性は、「毎年ラマダンが始まると、市場はより一層賑やかになります。近隣に住むイスラム教徒の人々が、日没後の食事を準備するためにここで食材を買っていきます。近年は、イスラム教徒でない観光客も、この時期ならではのチャム族の味を求めて足を運ぶようになっています」と話していました。
4. おわりに
独特の味わいと祝祭の雰囲気を併せ持つラマダンのフードマーケットは、「食べる」だけでなく、宗教や文化、人々の暮らしが交わる異文化体験への入り口でもあります。この路地に生まれるにぎわいは、訪れる人々に新たな発見と温かな交流をもたらしてくれます。ホーチミン市の喧騒のなかで異文化の息吹を身近に感じられる貴重な機会として、これからも多くの人々を惹きつけていくでしょう。
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