1. はじめに
2026年7月、私はトレーニーとして3週間のシンガポール研修に参加しました。現地で生活する中で、デジタル技術が日常に深く浸透していることを実感しました。今回は、海外での生活経験がほとんどない一日本人の目線で見た、シンガポールの日常に溶け込んだ「デジタル化」の光景を一部ご紹介します。
2. デジタルな日常
(1)財布のいらない街
シンガポールのデジタル化を最初に強く感じたのは、到着したチャンギ国際空港でした。顔認証などを活用した自動化が進んでおり、入国手続きは非常にスムーズでした。
市内へ出ると、その印象はさらに強まりました。MRTやバスなどの公共交通機関では、クレジットカードのタッチ決済で乗車できるシステムがすでに広く定着しています。改札や乗降の流れは極めて自然で、現金や切符を意識する場面はほとんどありませんでした。日本の公共交通機関でもようやくクレジットカードのタッチ決済が普及し始めていますが、シンガポールでは当たり前の仕組みとして浸透しており、キャッシュレス化の進展に大きな差を感じました。
さらに印象的だったのは、ローカルなフードコートである「ホーカーセンター」です。個人経営の小さな屋台でも、クレジットカード決済や共通QRコード決済(SGQR)が広く浸透しており、滞在中に現金を持ち歩く必要性はほとんど感じませんでした。
(2)配車アプリとダイナミック・プライシング
もう一つの日本との大きな違いは、Grabに代表される配車アプリの定着です。需要や天候、渋滞状況に応じて運賃が変動する仕組みは、利用前に料金の目安が確認できるため、旅行者や出張者にとっても安心感があります。
シンガポールは公共交通機関が緻密に発達していますが、それでも市民が気軽に配車アプリを使う背景には、同国特有の厳しい自家用車抑制政策があります。車両購入権(COE)の価格だけで10万シンガポールドル(約1,250万円)を超えることもあり車の所有コストが極めて高いため、シンガポールでは車は「所有するもの」というより、「必要に応じて利用するもの」と捉える感覚が広く浸透しています。
3. DX化進展の背景
キャッシュレス決済や配車アプリの利用がここまで日常に溶け込んでいる背景には、政府が長年にわたって進めてきた「スマートネーション」構想に支えられていることを強く感じます。ICTやデータ、AIなどを活用し、行政サービスや都市機能をより便利で効率的に整えることを目指す国家的な取り組みは、他にも、デジタルマイナンバーの活用や、行政手続きのオンライン化などにも反映されています。
街中に広がるデジタル化が日常生活の前提として定着している状況は、政府主導でデジタル基盤の整備を着実に進めてきた結果であり、シンガポールのDX化を支える大きな土台になっているといえます。
4. おわりに
シンガポールでは、国家戦略として最先端技術を導入し、デジタルシフトが実践されてきました。2014年に発表された「スマートネーション構想」を起点とし、2024年には「スマートネーション2.0」が打ち出され、テクノロジーをより効果的に活用しながら未来の変革を目指しています。こうしたシンガポールの取り組みは、日本企業や邦銀にも多くの示唆を与えるものだと感じました。
<ご注意>
文中意見は筆者の個人的見解であり、北陸銀行としての見解の反映ではありません。当レポートは作成時点の経済状況に基づき、情報提供のみを目的に作成したものです。記載内容についてはご利用者の判断と責任のもと、ご利用くださいますようお願いいたします。

